[第2回]自動車保険の新境地を開いた人身傷害補償保険

自由化という荒波が鍛えてくれたお客様本位の商品開発とは何か

自動車保険は東京海上日動の主力商品である。そのラインナップには業界全体が注目し、商品開発に大きな興味が抱かれている。特に、人身傷害補償を盛り込んだ自動車保険TAPによって、それは拍車が掛かった。人身傷害補償保険開発の経緯と、そこに込められた想いを主要メンバーに聞いた。

取材日:2005年6月24日

商品販売支援部 商品・サービス開発 グループ課長 川本哲文

経営企画部 調査企画グループ 課長 有田克彦

個人商品業務部 次長 星野明雄

自動車保険の豪華版こそお客様本位の商品となる

 第3世代自動車保険「トータルアシスト」が今熱い。しかし今回、これだけアシスタンスが充実している商品を生み出せたのは、自由化後初の独自商品である「TAP」があったからとも言える。それほどTAPは、衝撃的かつ、東京海上(当時)の底力を内外に示す商品だった。

 「あれだけの商品が作れたのは、自由化に対する東京海上(当時)の姿勢を見せよ!というミッションがあったから」と川本は、TAP開発の背景を語る。業界地図は間違いなく変わる。そこで自社は、どのような会社になるのか。どのような位置を目指すのか。それを示そうという強い意志が、プロジェクトチーム全員の心の中にあったのである。

 「一般の予想は、“どれほど低価格の商品を出してくるのだろう”だったと思います。経営陣からも最初は、“安くて良い商品”の開発を求められました」と、有田は、当時の状況を振り返る。

 自動車保険の新商品開発のプロジェクトチームがスタートしたのは、1997年10月。その前年にはすでに、外資系保険会社が、自動車保険の通信販売をスタートさせていた。そのため自由化以降の自動車保険は、品質はさておき保険料が下がるのは当然という、雰囲気が世の中に蔓延していた。

 しかしプロジェクトチームは、あえてその波には乗らないという決断をした。低価格より補償の拡充に力を注ぐという、コンセプトを立案した。

自由化後のアイデンティティは未来のニーズに先駆けること

 「むろん“安くて良い商品”を求めている方もいるでしょう。しかし、すべてのお客様がそうだとは限らない。商品の中身にこだわる人もいるだろう。だから、自動車保険のラインアップに豪華版、上級商品があってもいいじゃないか」と言うのが、彼らの考えだった。

 豪華版にするために考えられたのが、契約者の被った損害をすべて補償するという設計。そこで代車費用担保、オールリスク免責ゼロ、積載動産担保や遠隔地事故諸費用担保などを盛り込んだ。中でももっとも注目すべきは、川本が以前から自動車保険の一つの理想型と考えていた、被害者となられた東京海上(当時)のお客様に十分な補償を提供し、同時に、加害者とのわずらわしい交渉を肩代わりして差し上げることができる、「人身傷害補償」だった。

 発売から7年が経ち、今でこそ業界ではスタンダード、お客様にも好評をいただいている人身傷害補償である。しかし、当時アメリカには同種の保険制度があるが、果たして日本で浸透するか。日本の社会で、このタイプの保険を受け入れるだけの下地が十分できていないのではないか。当時、懸念は大きかった。星野は、開発当初から相談していた損害サービス業務部に、あらためて意見を求めた。

 アメリカには無保険車が多いため、人身傷害補償のように、自分の保険で身を守らざるを得ない。また、訴訟過剰の社会では、なるべく金銭的な解決を図ろうとする、社会的要請がある。そうした文化のない日本では時期尚早ではないか、との意見が当初は損害サービス業務部にもあった。しかし、プロジェクトチームと二人三脚で検討を進めていく中で、むしろ、日本もこれからきっとアメリカ型に近づいていく。しかも、未来のニーズに先駆けて応えていくことこそ、豪華版たる由縁。自由化後にどんな会社になるのか、東京海上(当時)の姿勢を見せようではないか、という機運が損害サービス業務部の検討メンバーの中で高まり、損害サービスフローや体制について、次々と積極的な提案がなされるようになった。これを見て、星野は人身傷害補償は絶対成功すると確信を持った。

マーケティング理論にたった開発は次世代へと引き継がれていく

 とはいえプロジェクトチームは、単なる未来予想で人身傷害補償の導入に挑んだわけではない。「このプロジェクトでは、“星野塾”でみっちりマーケティングを教わった」と川本が言うように、新商品の開発では星野の指導のもと、本格的なマーケティング理論が導入され、真にお客様本位となる商品の開発に注力したのだった。

 関係法規との調整や基礎書類の作成、監督官庁との認可折衝にとどまらず、自由化という激動期だからこそ生じた、さまざまな苦労があったことはいうまでもない。

 しかしそれらも、新しい保険を作るという夢と、損害サービス業務部を中心とする周囲の協力という現実によって、跳ね返すことができた。しかも、たった9か月というタイトなスケジュールを乗り越えて、である。

 発売以降TAPは、マスコミ報道などにおける『なぜ今上級商品?』という驚きを跳ね返すほど、順調に売り上げを伸ばしていった。他社の追随を簡単に許さないだけの、先行利益をあげたことは、多くのものが知るところだろう。

 「自動車保険のセールスポイントは価格だけではない。お客様は我々が創造した付加価値を認めてくださったのだ、と感慨深かったですね。今後もさらに上級に位置づけられる商品の開発をめざして欲しい」と、有田は言う。

 開発業務から離れた今も、彼らの視線は「お客様本位の商品とは何か」というところから、はずれてはいないようである。