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仙台市福住町の取り組み

「自助」「共助」「他助」の実践

宮城県仙台市宮城野区のほぼ中央に位置する福住町は、人口約1,500名の住宅地です。417世帯・1,117名(2012年8月現在)が加入している町内会は、災害に対して普段から積極的に備えていることで有名です。今回はその福住町内会 会長である、菅原動物病院 院長 菅原康雄氏に、福住町における防災・減災の取り組みについてお話を伺いました。
取材日:2013年1月7日

防災マニュアル作成のきっかけ

菅原動物病院 院長 菅原康雄氏

福住町付近は昔から水害地帯であり、浸水や災害には以前から敏感でした。前会長のはたらきかけもあり、毎年11月に町内会レベルとしては大規模の防火・防災訓練を行ってきました。

しかし、あるとき青森県の立佞武多の館で関東大震災の写真を見たとき、30年以内に大地震が起きることが予想されている東北に、本当に大地震が発生したら、現状のような防火・防災訓練では難しいのではないかと考えました。そこから防災関連資料を探し始め、2003年1月の町内総会で自主管理マニュアルの作成を決定し、住民調査に基づいて町内会の名簿と災害時要支援名簿を作成したのです。2003年8月31日には、自主防災マニュアル「防災わがまち 福住町自主管理マニュアル」を作成し、町内会の全世帯に配布しました。

この自主管理マニュアルでは、住民だけではなくペットのための対応までを対象に含めています。最近は、個人情報保護の問題で名簿作りが難しいという話を聞きますが、高齢者や障がい者などの弱者を守るためにも、名簿は必要です。福住町では約1,000名の名簿を2か月で作成しましたが、その名簿には住所・氏名・年齢・電話番号・仕事先・連絡先・ペットの有無を記載しています。

災害時相互協力協定

災害時相互協力協定を結ぶ地域から
届いた支援物資

福住町では、もし大災害が発生したときにお互いが助け合うことを目的として、独自にさまざまな近隣の町と「災害時相互協力協定」を結んでいます。仙台市内に2カ所、茨城1カ所、長野1カ所、山形1カ所の合計5カ所です。はじめは福住町から応援に行きやすい、車で30分~1時間で行ける距離にある地域との連携を考えていましたが、遠距離でも物流さえ回復すれば物資を送ることができますので、現在は遠距離の地域とも協定を結んでいます。また、いざというときに炊き出し作業ができるように、地区の集会所では都市ガスからプロパンガスに切り替えたのですが、そのプロパンガス業者とも災害時相互協力協定を結び、ガスを供給してもらうことにしています。

大切なことは普段からのコミュニケーション

イベント時や、実際に被災した時
にも活躍する綿飴機械

福住町では、顔が見える支援活動を心がけています。たとえば、災害時相互協力協定を結んでいる地域とは、災害時だけではなく平常時からコミュニケーションを取るようにしていて、福住町のお祭りに来てもらったり、逆にこちらから先方のイベントに参加しに行ったりと、常に顔が見える付き合いを行うよう心がけています。また、私が普段、動物病院を開業していることもあり、犬、猫、ウサギ、モルモットの動物たちを現地に連れて行き、触れ合い会も実施しました。このように普段からコミュニケーションを深めておくことで、いざ災害が発生したときに、自然とこちらも動きますし、相手も動いてくださるなど、心情的なプラス効果があります。

また、私たちはいつも直接支援物資を届け、相手の顔を見て手渡しすることを心がけています。手渡しですと、相手の顔が見えますし、こちらの顔も見えますから、気持ちを分かち合うことができます。私は、そうした心から人間同士の深いつながりが生まれてくるものだと考えています。災害時はできることだけをボランティアでやるようにして、細かな取り決めなどは特にしていません。細かい約束ごとが足かせにならないように、柔軟に人道的にできることを、できるだけやるようにしています。

東日本大震災の際に

指定避難所
(仙台市立高砂小学校体育館)

2011年3月11日、東日本大震災が発生。地震による人的被害は比較的少なくて済みました。また、福住町近くを流れる梅田川にも津波が押し寄せましたが、幸いにも津波が堤防を越えることはありませんでした。

発生当日、夜になって住民たちは福住町の集会所に避難してきましたが、そこには飲料・食料、発電機、トイレなどの用意を整えていました。また、作成していた名簿のおかげで住民の、特に高齢者の安否を素早く確認できました。私たちは災害マニュアルの中で、「初期の10日〜14日は自分たちで乗り切る」という自主的な行動指針を掲げていますが、そうした考えに基づいて普段から防災訓練を実施し、災害発生後3日間は「自助」で持ちこたえられるように、用意していたことが役に立ったといえます。

地震発生から4日後の2011年3月15日、まだ交通網がまひしている中で、「災害時相互協力協定」を結んでいる山形県尾花沢市と新潟県小千谷市の町内会の方々が、米、飲料水、野菜などの支援物資を届けてくださいました。さらに、近くのハム貯蔵会社がハムを持ってきてくれました。ちょうど集会所に避難した住民が持ち寄った食料や備蓄してあった食糧が少なくなり、「このままでは…」と心配し始めたころでしたので、本当に助かりました。「災害時相互協力協定」のありがたみを実感した瞬間でした。

一方、福住町近くの市民センターには、1200人ほどの被災者が集まっていたのですが、指定避難所ではないため、支援物資の確保が難しかったそうです。センター長の個人的なネットワークを活用して、全国にSOSを発信し、非常事態を乗り切っていたといいます。福住町では、すぐに炊き出しを行い、170名分の食事を作って、市民センターに避難していた人たちに届けました。

また後日、大船渡、気仙沼、女川などの被災地に、支援物資がなかなか届いていないという状況を知り、マイクロバスで支援物資を届けに行きました。福住町は、普段からの備えにより自分たちの力で助かる「自助」と共に助け合う「共助」という考え方がしっかりと定着し、東日本大震災の際にもそれを実践できました。だからこそ、このようにほかの人たちへの支援、つまり「他助」を拡大することができたと考えています。

こうした取り組みを実践するために必要なこと

2011年 第9回防火防災訓練の様子

こうした活動をほかの町内でも実践するためには、とにかく町内の一致団結が必要です。そのため、町のリーダーには、リーダーとしての資質が必要です。私個人の意見としては、定年退職し、時間がある方ではなく、現役で働いている方が適任だと考えます。また、全員参加型の町内会を作るため、多くの人に役付けをする必要があると思います。

また、いざ災害が発生すると、男性の視点だけでは不足するものが多く出てきます。避難所ではそれが特に顕著です。そのため、町内会の執行部には女性が参加し、女性や子どもの視点で用意することが必要だと思います。ほかにも、別の町内で取り組んでいる防災・減災の取り組みについて、その手法や意見を聞きながら、良い部分を常に自分たちの町内に取り入れていくことが重要です。

もし、あなたの地域でも自主防災組織を立ち上げ、地域の防災・減災に取り組もうと考えているのであれば、まずはできることから1つ1つ実践していきましょう。ほかの地域の取り組みを知って、ハードルが高いと感じる方がいらっしゃるかもしれませんが、どんな組織も最初はゼロから出発しました。できることから実践していく姿勢が大切です。防災・減災の活動で分からないことがあるときは、福住町のような自主防災組織の先輩に助言をもらったり、そのやり方にならったりすることも、活動の輪を広げていく1つの手法です。

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