前を向いているのに見てない!?見えてない!?
2018年1月号
今月のクイズ
2016年中に起きた交通事故のうち、ボーッとしたり、考えごとをしたりして危険を見落とした漫然運転による事故は、3万9,625件でした。このうち、約8割を占める事故の種類を次の中から選んでください。
- (1)横断中の歩行者との衝突事故
- (2)追突事故
- (3)工作物への衝突事故
渋滞で車がゆっくりと流れているとき、ついボーッとしてしまい前の車のブレーキランプが点いたのに気づかず、目の前に車が迫ってハッと慌てたことはありませんか?また、側方から「自転車や歩行者が急に現れた」と感じることが続いていませんか?
今月は、運転時において前を向いて「見る」とはどういうことか、はっきりと「見る」「見える」ためにはどうすればよいかについて考えてみましょう。
運転中にボーッとしたり、考えごとをしたりすると、意識が前方からそれてしまう!?
2016年中に起きた交通事故を法令違反別にみると、ボーッとしたり、考えごとをしたりして危険を見落とす漫然運転は、事故全体の約8%を占めています。ところが、死亡事故では約17%と2倍に増え、法令違反の中で最も多くなります。その死亡事故の内訳をみると、人との衝突が約半数を占め、中でも横断中の歩行者との事故が漫然運転の3割以上となっています(図)。
前方を見るとき、「周囲まではっきり見えている」と思われているかもしれません。しかし、実際には焦点を合わせた中心からはっきり見える部分はわずか2度ほどで、さらに周囲で色や物体が何となくわかる範囲は35度と狭く、中心から離れるほどぼんやりします。

文中および図の出典:警察庁交通局 平成29年3月「平成28年における交通事故の発生状況」、平成29年2月「平成28年中の交通死亡事故の発生状況及び道路交通法違反取締り状況等について」より弊社作成
ドライバーは自身の運転経験から、前方の注視すべきポイントに優先順位を付け、次々に視点を移して、注意を払いながら安全確認をしています。意識が前方に向いているので、ぼんやりと見える視野の片隅でも、動きがあると「危険かも?」と感知します。すると、危険と思われる箇所に視点を移して確認し、「自転車がいる」「人が飛び出すかもしれない」と注視すべきポイントの優先順位を上げます。このとき、ボーッとしたり、考えごとをしたりすると、運転以外のことに自分の意識が向いてしまうため、注視すべきポイントを見落とす危険性が高くなるのです。
気づかないうちに視野が狭くなり、見えていない状態になる!?
意識を運転に向けていても、視機能が低下していると注視すべきポイントが捉えにくくなり、事故を起こす危険性が高くなります。視力の低下や目の疲れで、視機能が低下することもありますが、目の病気により視野が欠損している可能性もあります。
日本人の失明原因の第1位は緑内障*ですが、罹患しても無自覚なままの人がいます。治療を適切に行わないと、徐々に視野が欠損したり狭くなったりして失明に至ります。
視野の欠損箇所が中心であれば気がつきますが、周囲であると自覚がないまま運転を続けてしまう可能性があります。両眼の上部に欠損箇所があると信号に気づかず、左右や下部だと人や交通状況の変化に対応しきれなくなり、重大事故を起こす原因になります。
- *出典:中江公裕ほか「42.わが国における視覚障害の現状」厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究事業 網膜脈絡膜・視神経萎縮症に関する調査研究 平成17年度 総括研究報告書より
はっきりと「見る」「見える」状態で運転するには
前を向き、はっきりと「見る」「見える」状態で運転するにはどうしたらよいかをみてみましょう。
目と身体を休めましょう
スマートフォンやパソコンを長時間使用すると、目の疲れから前方がかすみ、運転に支障をきたすおそれがあります。また、身体が疲れたまま運転すると、ボーッとして事故を起こす危険があります。液晶画面を見る時間は短くし、睡眠をよくとり、長時間運転するときは定期的に目と身体を休めましょう。
身体を十分に休めても、運転中にボーッとして眠気がとれない場合は、睡眠時無呼吸症候群(SAS)の可能性もあります。病院で診察を受けましょう。

運転以外に気になることがある場合は、なるべく運転を控えましょう
仕事上のトラブルやプライベートでの悩みなど、運転以外に気になることがある場合は、なるべく運転自体を控えましょう。「心を落ち着かせたから大丈夫」と運転しはじめても、意識がふと気になることに向くことがあり、目前に迫る危険の発見が遅れて事故を起こすおそれがあります。

視力が低下している場合は、メガネやコンタクトレンズで調整しましょう
普通自動車の運転には、両眼で0.7以上、片眼でそれぞれ0.3以上の視力が必要になります。視力が低下している場合は、メガネやコンタクトレンズで調整し、よく見える状態を保ちましょう。

目に少しでも違和感をおぼえたら、眼科で診察を受けましょう
運転に支障を及ぼす目の病気は、緑内障のほかにもあります。目に少しでも違和感をおぼえたら、眼科で診察を受けましょう。 また、「自分は大丈夫」と思っても、40歳を過ぎたら定期的に眼底検査などを含む眼科検診を受け、早期に病気を発見し治療することをお勧めします。

- 前方を「見る」ためには、目と身体を十分に休めましょう。運転以外に気になることがある場合は、なるべく運転自体を控えましょう。
- 前方が「見える」ためには、視力を調整し、目に違和感をおぼえたら眼科で診察を受けましょう。
今月のクイズの答え
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(2)
追突事故 (出典:警察庁交通局 平成29年3月「平成28年における交通事故の発生状況」より)