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ライオンズタワー仙台広瀬の取り組み

都市型高層マンションでの防災・防火活動

宮城県仙台市青葉区にあるライオンズタワー仙台広瀬は、地上32階404戸と店舗5戸の都市型タワーマンションです。2003年2月に竣工され、現在約1,000人が居住しているこのマンションでは、立候補理事によって運営される管理組合法人が中心となり、高層マンションならではの防災活動を実施しています。今回は、そのライオンズタワー仙台広瀬の管理組合法人理事長である杉山丞氏に、防災・減災の取り組みについてお話を伺いました。
取材日:2014年6月5日

管理組合が、防災・防火活動を主導

管理組合法人理事長 杉山丞氏

当マンションの管理組合では、生活環境をより良いものにしていくため、さまざまな取り組みを行ってきました。例えば、機械式駐車場利用料からの積立金を適正化するために、年間支出を大幅に圧縮した結果、管理費低減にまでつながりました。また、夏祭りやハロウィン、クリスマス会など管理組合主催のイベントをほぼ毎月開催し、句会やコーラス、フラダンスなど各種サークル活動も支援してきました。

活動が多岐にわたってきたため、管理組合としての範疇を超えた活動については、管理組合の役員が兼任で自治会を発足させ、こちらで行うこととしました。高齢者のための健康教室などもその1つです。また、管理組合では、当時、発生確率が99%といわれていた宮城県沖地震への対策として、2010年から防災マニュアル作りに着手しました。先行して高層マンションにおける防災マニュアルを作成した東京都中央区の管理組合や、それを支援した区の防災課を訪問、調査しました。また、仙台市とも災害発生時の対応について協議を重ねました。

さまざまな要件を検討した結果、地域の避難所の収容力を考慮して、災害発生時はマンション内にとどまり、地域に迷惑をかけずに自助・互助・共助で災害を乗り越えることを前提としたマニュアルを作成することにしました。また、災害発生時に役員が不在であることも考えられますので、役員による共助の重要度を下げ、準備と自助(+互助)を重視したマニュアルにしました。また、厚くて文字の多いマニュアルでは読んでもらえないという経験談を訪問調査で聞いていましたので、通常のマニュアルとは別に、薄くてカラフルなパンフレットも作成しました。

防災マニュアル

防災パンフレット

設備情報の収集・防災備品の配備を事前に実施

管理組合は助けが必要な人を効率的に助けるため、居住者に対してアンケートを実施し、災害時要支援者を名簿化。あわせて、自家発電装置・貯水タンク・非常放送設備など、災害発生時に必要になる設備の情報を収集しました。さらに、周辺地域の被害予測データ、当マンションの構造設計者を招いた勉強会なども実施しました。

また、高層マンションならではの問題といえば、災害発生時のエレベーター停止です。エレベーターが動かないと高層階の居住者、特に高齢者は帰宅や買い出しが困難になってしまいます。そこで、ライフラインの停止を想定して、ライフラインの復旧見通しや、家庭・班・対策本部それぞれの行動方針を作成しマニュアルに盛り込みました。2フロア26戸を1つの班とする班長制度の採用、簡易トイレなど防災備品を地下倉庫から偶数階のパイプスペースへ再配備、プロパンガスなど炊き出し用の道具やテントの購入、災害時に避難場所にするキッズルームの二重サッシ化、防災訓練といった事前の準備も行いました。

偶数階に配置した備蓄品

プロパンガスなどの炊き出し用道具

防災訓練の様子

主体的な活動で震災時の危機を乗り越える

2011年3月11日の東日本大震災発生時、当マンションは免震構造のおかげで、被害は軽微でした。停電によりエレベーターが停止してしまいましたが、これは想定内でした。しかし、火災報知器のトラブルにより、給水ポンプにいくはずの非常電源が消火ポンプにいってしまい、断水となってしまったことは予想外でした。

管理組合の役員からなる対策本部の対応としては、防災マニュアル作りの過程で防災の知識を得ていたことや事前の調査のおかげで、主体的に活動できました。玄関ロビーにホワイトボードを設置して情報発信を行うとともに、予定通りにキッズルームを避難場所として開放し、石油ストーブやラジオ、飲み物、布団などを用意しました。そして、翌日の3月12日昼には、備蓄していた簡易トイレと水タンクを配布するとともに、豚汁とおにぎりの炊き出しを行いました。

ロビーでの情報発信

炊き出しの様子

キッズルームを避難場所として開放

エレベーター会社と交渉し、自家発電装置による電力で早期(翌日16時)に、非常用エレベーターを時間限定で動かすことに成功。エレベーター停止のために避難場所に足止めされていた居住者を、自宅へ帰すことができました。翌々日の3月13日にも、豚汁の炊き出しを行うとともに、地上に降りられず買い物にいくこともままならない「70歳以上の単身世帯」を、要援護者名簿を頼りに数十軒、戸別訪問し、食材を届け、様子をうかがいました。

震災時の経験により防災・防火活動を改善

東日本大震災発生後、当時の対応の問題点を洗い出し、防災マニュアルに反映しました。例えば、安否確認の効率を高めるため、玄関ドアに貼るマグネット式の安否確認ステッカーを配布し、支援が必要であることや無事で安否確認が不要であることを知らせてもらうことにしました。また、初期活動として班ごとに互助活動を行い、本部に報告することにしました。

安否確認ステッカー

災害発生時には、隣近所の助け合いが重要です。しかし、東日本大震災発生後に実施したアンケートから、自分が住むフロアの他世帯の居住者について、顔と名前が一致する人がいるのは全体の2~3割であるという実態が分かりました。そこで、居住者どうしのコミュニケーションを活性化するため、班別の懇親会や防災訓練を行うよう取り組んでいます。こうした活動は、防災面だけではなく、日常的な近隣トラブル回避の面でも効果があると期待しています。

今後も、班ごとの防災・防火活動を積極的に

今後の活動としては、班別の防災訓練を積極的に実施していきたいと思います。安否確認だけではなく、それを災害対策本部まで報告する情報伝達訓練、本部から物資を渡す訓練まで、あわせて行っていきたいと考えています。また、こうした活動はマンションの全居住者に浸透することが理想です。しかし、まだまだ全体に浸透しているとはいえない状態ですし、震災の記憶が薄れていくにつれ、防災意識もかすんでいくことがないよう、広報に努めていく必要があると感じています。

これから防災の取り組みを始めようとしているマンションの管理組合に、私たちから何かアドバイスができるとしたら、まずは自分のマンションの構造や設備、避難経路などの長所と短所を把握しておくことです。そして、改善できるところから取り組み、改善できないところはその対策を考えておくことが第一歩だと考えます。管理会社まかせにしていると、いざというときに管理会社と連絡が取れず右往左往することになります。できる限り、管理組合が中心となって活動することで、管理組合活動そのものの活性化にもつながっていくのではないでしょうか。

高層マンションにおける防災対策としては、次の5つがポイントになると考えています。

  • 1自家発電装置の燃料タンクを増設し、少なくとも3日もつようにする
  • 2自家発電装置による非常用エレベーターの運転体制を確保する(災害発生後の早期点検体制の覚書を交わす)
  • 3低層部の共用施設を一時避難場所として、断水時のトイレ利用法を工夫し、石油ストーブや灯油、非常食を備蓄する
  • 4簡易トイレや拡声器、ライトや電池などを極力分散して備蓄し、配布体制を整備する
  • 5安否確認は、短時間に簡単に手分けしてできるように、極力小規模な班単位での活動とする

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