カーボンニュートラルとは?背景や各国目標について
「カーボンニュートラル」という言葉をご存知でしょうか。
温室効果ガスの実質的な排出量がゼロとなった状態をカーボンニュートラルといい、日本を含む120以上の国・地域が、2050年までのカーボンニュートラル実現を目標として掲げています。
政府が2050年のカーボンニュートラル実現を目指している以上、日本に住む私たちにとって決して無関係な問題ではありません。あらためて「カーボンニュートラルとは何か」を学んでいきましょう。
カーボンニュートラルとは
カーボンニュートラルとは、温室効果ガスを吸収・除去して「排出量を差し引きゼロ」にした状態を指します。

温室効果ガスの排出量を差し引きゼロとするためには、「(1)温室効果ガスの排出量を抑える」と「(2)温室効果ガスの吸収量を増やす・温室効果ガスを除去する」の両方からアプローチする必要があります。
排出量を抑える取り組みは、すでに私たちの身近でも行われています。たとえば、太陽光発電や風力発電など再生可能エネルギー設備の設置や、EV(電気自動車)の導入は排出量抑制に貢献する代表的な取り組みです。

温室効果ガスの吸収量を増やす取り組みとしては、二酸化炭素を吸収する森林の育成が挙げられます。植林による森林育成は、吸収量増加だけでなく水の保全・生物多様性の維持にも効果が期待できる取り組みです。
温室効果ガスの除去方法としては、大気中の二酸化炭素を除去・減少させるCDR(二酸化炭素回収技術)のうち、DAC(直接空気回収)と呼ばれる手法が有望視されています。
カーボンニュートラル実現には多角的なアプローチが必要となるため、多くの国や機関が「排出量抑制」と「吸収・除去」の観点から活動・技術開発を行っています。
いまカーボンニュートラルが求められる理由
温室効果ガス排出量の削減により得られるメリットは複数ありますが、カーボンニュートラルが強く求められる背景には地球温暖化が深く関係しています。
異常気象の多発に関係する地球温暖化
二酸化炭素やメタンなどの温室効果ガスは、熱を吸収して地球を暖める役割があります。しかし、温室効果ガスの濃度が過度に高まると、地表の熱が宇宙に放出されづらくなり気温が上昇してしまいます。
地球温暖化と呼ばれる現象は、このような仕組みで起こっているのです。

昨今起こっている大規模・高頻度の異常気象は、地球温暖化による気温上昇に起因すると考えられており、その根拠が年々強化されています。
2021年に公表されたIPCC第6次評価報告書では、人間起源の影響により多くの極端現象が起こった可能性が示唆されました。この評価結果は「温暖化対策を怠れば異常気象はさらに増える」という未来を示しています。




温暖化対策をしなかった場合のシナリオ
IPCCの資料によると、気候政策を導入しないシナリオでは2081~2100年に世界平均気温が3.3~5.7℃上昇する予測*¹です。このシナリオを「SSP5-8.5」といいます。
一方、21世紀末の昇温を約1.5℃に抑える気候政策を講じれば、持続可能な発展を維持しながらも2081~2100年の気温上昇を1.0~1.8℃に抑えられる予測*¹となります。こちらのシナリオは「SSP1-1.9」といいます。
もしも「SSP5-8.5」が現実のシナリオとなった場合、地球はこれまでとは比較にならない気温上昇を経験することになり、異常気象の規模・頻度は現状以上になると予測できます。
IPCC第6次評価報告書で定義されたシナリオは5つに細分化されており、上から下に向かうほど持続可能性の配慮に消極的なケースを想定しています。
シナリオ | 2021~2040年の気温*1 | 2041~2060年の気温*1 | 2081~2100年の気温*1 |
---|---|---|---|
SSP1-1.9 | +1.2~1.7℃ | +1.2~2.0℃ | +1~1.8℃ |
SSP1-2.6 | +1.2~1.8℃ | +1.3~2.2℃ | +1.3~2.4℃ |
SSP2-4.5 | +1.2~1.8℃ | +1.6~2.5℃ | +2.1~3.5℃ |
SSP3-7.0 | +1.2~1.8℃ | +1.7~2.6℃ | +2.8~4.6℃ |
SSP5-8.5 | +1.3~1.9℃ | +1.9~3.0℃ | +3.3~5.7℃ |
- *1工業化前を基準とした気温上昇の予測
いま世界の二酸化炭素量はどうなっているの?
地球温暖化を進める温室効果ガスのうち、割合としてもっとも多いものは二酸化炭素です。そして、世界全体における二酸化炭素排出量の半分以上は、先進国や経済成長を迎えている数か国によって生じています。

出典:EDMCエネルギー・経済統計要覧 2021年版
全体の排出量も1990~2000年前後から急速に増加しており、いったん増加に歯止めがかかった2019年までおおむね右肩上がりが続いてきました。

出典:(一財)日本エネルギー経済研究所「エネルギー・経済統計要覧2021」より作成
- ※四捨五入の関係で合計値が合わない場合がある
- ※ロシアについては1990年以降の排出量を記載、1990年以降については、その他の国として集計
2020年にはパンデミックの影響によりエネルギー需要が減少し、第二次世界大戦以来最大の年間減少率となりましたが、より本質的な排出量削減に努めるべき状況に変わりはありません。
世界各国における主な目標・政策
温室効果ガス排出量を減らすため、世界各国ではカーボンニュートラル実現に向けた目標・政策の策定が進められています。日本を含めた主な排出国が、どのような目標や政策を掲げているのか見てみましょう。
収支ゼロ年限 | 2030年目標 | 主な政策 |
---|---|---|
日本 (2050年) |
2013年度比で46%削減し、さらに50%の高みに向けて挑戦 |
|
EU (2050年) |
1990年比で少なくとも55%減 |
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米国 (2050年) |
2005年比で50〜52%減 |
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英国 (2050年) |
1990年比で少なくとも68%減 |
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中国 (2060年) |
2005年比でGDP当たりCO2排出量を65%削減 |
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ロシア (2060年) |
1990年比で70%削減 |
|
このほか、EUを含めると世界で4番目に二酸化炭素排出量の多いインドが、2021年11月に「2070年のカーボンニュートラル実現を目指す」と初めて排出量ゼロを目標に掲げるなど、これまで意欲的な姿勢を見せなかった地域もカーボンニュートラル実現に舵を切りつつあります。
日本の政策はどのようなもの?
日本政府は二酸化炭素の排出量抑制につながる政策を講じ、あらゆる分野の脱炭素化へ働きかけています。

出典:内閣府ほか 「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」より作成
上記の通り分野を横断した脱炭素化を進め、2030年には少なくとも46%削減(2013年度比)を目指し、2050年のカーボンニュートラル実現を目標とする日本は主な政策としてつぎの3つを掲げています。
グリーン成長戦略
2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略(以下、グリーン成長戦略)は、その定義を「経済と環境の好循環を作る」とする産業政策です。
グリーン成長戦略では今後の産業としての成長性が期待され、さらに温室効果ガス排出量の削減が重要となる14分野を取り上げ、関係省庁が一体となり進める実行計画を策定しています。

出典:内閣府ほか 「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」より作成
グリーンイノベーション基金事業
グリーンイノベーション基金事業は、経済産業省とNEDOを中心として実施される基金事業です。グリーン成長戦略により指定される重点分野に関連した、政策効果の大きい取り組みの継続支援を目的としています。
基金は2兆円が設定されており、適用対象となる野心的な目標を持ったプロジェクトには、研究開発・実証から社会実装まで10年間の支援が実施されます。
エネルギー基本計画(素案)
おおむね3年に一度見直しが行われるエネルギー基本計画において、2021年7月に「第6次エネルギー基本計画」の素案が示されました。第6次エネルギー基本計画は、2050年のカーボンニュートラル実現、2030年の46%削減(ならびに50%削減に向けた挑戦)実現の道しるべとなるものです。
第6次エネルギー基本計画のもと、2013年には12.35億トンであった二酸化炭素排出量は、2030年に約6.8億トンにまで軽減される見込みです。

出典:資源エネルギー庁 「エネルギー基本計画(素案)の概要」より作成
おわりに
地球温暖化を食い止めなければ、世界の異常気象は増加の一途をたどり、地球上に住む人類や動植物は甚大な被害にさらされます。そのため、カーボンニュートラルの実現は地球温暖化の進行を止めるための一手として達成されなければならないのです。
日本の場合、カーボンニュートラル実現の時期を2050年に設定していますが、これは政府や企業の働きかけだけで達成できるものではありません。いまこそ、手遅れになるまえにカーボンニュートラルの重要性を理解し、私たち自身も温室効果ガス排出量の削減に向けた行動が求められます。