住宅・建築業界の脱炭素取組動向
脱炭素とは
脱炭素とは、地球温暖化を引き起こす温室効果ガス、二酸化炭素の排出量と吸収量を打ち消しあって「実質ゼロ」にすることを目指す取り組みです。「カーボンニュートラル」と呼ばれることもあります。
2015年、第21回気候変動枠組み条約締約国会議(COP21)で「世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える」ことを目指すパリ協定が採択され、2020年には日本も「2050年カーボンニュートラル」を宣言しました。脱炭素に向けた取り組みが広がる中、今回は住宅・建築業界における動向について解説します。
住宅・建築業界の脱炭素化の現状
まず、住宅や建築物を利用することによる二酸化炭素の排出量(2020年度)は、商業やサービス業などの「業務その他部門」で1億8,200万トン(17.4%)、「家庭部門」で1億6,600万トン(15.9%)にのぼります。これらを合わせると33%で、全体の3分の1に当たります。これは、もっとも多い「産業部門(34.0%)」に次いで大きなウェイトです。
次に、住宅・建築業界による二酸化炭素の排出量は、他部門よりも減少傾向が鈍化しています。特に、家庭部門は前年度より4.5%増加しており、住宅の太陽光発電などで電気をつくる「創エネ」やエネルギーの使い方を効率化する「省エネ」の重要性が増しています。
二酸化炭素排出量を削減するため、どの業種・業界においても、商品やサービスだけでなく上流や下流も含めたサプライチェーン全体で取り組むことが主流となっています。住宅・建築業界においても、「調達・製造」「施工」「運用・居住」「解体・廃棄」といったサプライチェーン全体での取り組みが重視されています。
住宅・建築業界における脱炭素に向けた取り組み
住宅や建築物の運用段階では「ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス(ZEH)」や「ネット・ゼロ・エネルギー・ビル(ZEB)」が推進されています。これは、使うエネルギーとつくるエネルギーの収支をゼロ以下にする住宅・建築物のことです。また、ライフサイクル全体を通じて二酸化炭素の収支をマイナスにする「ライフサイクル・カーボン・マイナス(LCCM)住宅」の導入も進められています。
一方で、施工時においては、二酸化炭素を吸収・固定した木材やコンクリートなど環境配慮型新素材の開発が行われています。また、使用済み食用油などによるバイオディーゼル燃料を建設重機の燃料に使う企業もみられます。
さらに、2021年度には「建築物省エネ法」が改正され、延べ床面積300平方メートル以上の建築物に対して国が定める省エネ基準への適合を求めるなど、法規制も見直しが行われています。
脱炭素への取り組みにおける課題
脱炭素に向けては、まず、ライフサイクル全体での二酸化炭素排出量を測定しなければなりません。しかし、サプライチェーンが多岐にわたる住宅・建築業界では、全体の排出量を正しく把握することに課題があると指摘されています。
また、住宅における脱炭素化を進めるには、個人のライフスタイルの変革が必要な場合もあります。例えば、太陽光発電設備や省エネ給湯機を導入したり、再生可能エネルギーによる電気に切り替えたりするには一人一人の行動が求められます。こうした個人の意識を醸成することも、大きな課題であると考えられています。
まとめ
住宅・建築業界における二酸化炭素排出量は全体の3分の1を占め、日本の脱炭素に大きなインパクトをもっています。その反面、サプライチェーンが広範囲であり、個人のライフスタイルの変革も必要であるといった課題も残されています。「2050年カーボンニュートラル」実現の鍵を握る住宅・建築業界における取り組みが、課題を乗り越えて加速するよう望まれます。