視機能と運転を考える
2024年3月号
今月のクイズ
普通自動車免許の取得時及び更新時の視力検査の合格基準は、両眼で0.7以上、片眼それぞれ0.3以上ですが、職業ドライバーに多い大型免許・中型免許・第二種免許などの視力検査の合格基準の組み合わせで正しいものはどれでしょうか。
- (1)両眼で0.8以上、片眼それぞれ0.4以上
- (2)両眼で0.8以上、片眼それぞれ0.5以上
- (3)両眼で0.9以上、片眼それぞれ0.5以上
人は目から得る情報が8割を占めていると言われており、「見る」ことは運転に欠かせない重要な能力です。運転免許の取得・更新時には視力検査が義務付けられており、一定の基準を満たすことが求められますが、運転に必要な機能は視力(静止視力)だけではありません。また、視機能は加齢に伴い確実に低下します。今月は運転に係わる視機能の特徴と、その低下による危険性について理解を深め、目の健康寿命を延ばすためにはどうしたら良いのかを考えてみましょう。
運転に係わる視機能の特徴と低下による影響
視野
視野とは、人が目を動かさずに見渡せる範囲であり、静止時の水平方向の視野は片眼で左右それぞれ約160度ずつ、両眼で約200度までです。このうち両眼で色彩まで確認できる範囲はさらに狭く、左右それぞれ約35度までとなり、この範囲外では信号機の色を正確に識別することはできません(図1)。視野は速度が高いほど狭くなり、遠くを注視するようになるため、自車の近くから飛び出してくる歩行者や自転車を見落としやすくなります。
日本人における視覚障害の原因疾患の調査*1によると、視覚障害の原因疾患の第1位は緑内障で28.6%、第2位は網膜色素変性症で14.0%を占めており、いずれも視野が狭くなるなど視野障害をきたす疾患であり、全体の4割以上を占めていることとなります*2(図2)。
- *12019年の論文(2018年)統計 日本人における視覚障害の原因疾患(2018年、18才以上の視覚障害者手帳取得者 12,505名を調査)「Morizane Y et al.: Jpn J Ophthalmol. 2019; 63: 26-33」
- *2引用:国土交通省自動車局「自動車運送事業者における視野障害対策マニュアル」より
- 出典:一般社団法人全日本指定自動車教習所協会連合会編「安全運転の知識」(警察庁交通局運転免許課監修)より弊社作成
- 出典:国土交通省自動車局「自動車運送事業者における視野障害対策マニュアル」より弊社作成
特に視野障害は自覚しにくいと言われています。例えば病気で視野が狭まっていても、中心視力に影響がない場合、注視しているものはしっかりと見えているため、その周囲が見えていないということに気づきづらくなります(図3)。 また、片方の眼に視野欠損があった場合でも、もう一方の眼による補正や脳による調整が働き、見えていないことに気づかないということがあります(図4)(図5)。 このように自覚症状のないまま視野障害が進行していると、標識や信号、歩行者、対向車など、交通状況下における見落としが頻発し、事故に繋がる危険性が高まります。運転において視野がどれほど重要であるかということに加え、運転免許の取得・更新時に行われている視力検査だけでは、加齢や病気による視機能の低下が運転にもたらす影響を自覚するには限界があるということがわかります。
注視点は見えているため
視野が狭まっていることに気づかない
もう一方の眼で補正することで
標識がぼんやりと見えている
脳の調整により、標識が見えて
いないということに違和感がない
静止視力
静止視力とは、静止した状態で静止したものを見るときの視力を指し、運転免許の取得・更新時に行う視力検査でも測定されます。一般的には、Cの形をしたランドルト環を用いた視力検査表で検査を行います。普通自動車免許の合格基準は、両眼で0.7以上、片眼それぞれ0.3以上です。裸眼で基準に満たない場合はメガネをかけるなどして視力矯正をすることで免許の取得・更新が可能となりますが、運転免許証の「免許の条件等」の欄に『眼鏡等』と記載されます。運転免許証の交付または更新後にレーシック手術などで視力が回復した場合は、運転免許証の条件の解除申請をしなければなりません。条件の解除申請をしないまま裸眼で運転することは違反になります。
また、視力検査で測定される視力は一点を注視したときのものであるため、注視点から離れたところの視力は、測定された視力よりも低下します。運転時には信号や標識、歩行者、自転車、前の車、対向車、後続車など、多くの情報を捉えなければならないため、一点だけを注視せず、前方のいたる所やミラーにも視線を向けるなどし、絶えず目を動かし続けることによって交通状況を把握する必要があります。
動体視力
動体視力とは、動きながら、または動いているものを見るときの視力を指します。走行中は常に動いている状態であるため、運転において動体視力は重要な視機能の1つであると言えます。動体視力は静止視力に比べて低くなることにくわえ、速度が高ければ高いほど低下します。また、加齢とともに眼球を動かす筋肉も衰え、動体視力は大きく低下していきます。そのため、70歳以上の運転者が免許を更新する際に受講する高齢者講習では、動体視力検査が実施されます。動体視力が低下すると、走行中に歩行者や自転車、対向車などを見落としやすくなり、衝突や接触による事故を起こす可能性が高まります。
順応
順応には二種類あり、暗いところから急に明るいところへ出たときに目が慣れることを「明順応」、反対に明るいところから暗いところへ移動したときに次第に目が慣れることを「暗順応」と言います。一般的には暗順応の方が明順応よりも時間がかかります。また、順応も加齢に伴い低下していきます。特にトンネルの出入りや日没後に見えづらさを感じやすくなるため、適切な速度管理が大切です。夜間は対向車のライトなどを直視しないようにしましょう。
深視力
深視力とは、物体の遠近感や立体感、奥行きなどを捉える機能であり、大型・中型・準中型・けん引・第二種免許の取得および更新時には深視力検査が義務付けられています。深視力が低下すると、ルームミラーやドアミラーでの側方・後方確認による奥行きや車間距離を掴むことが難しくなり、衝突事故や追突事故に繋がります。
目の健康寿命を延ばすために
視野障害をともなう病気の多くは、症状が進行してしまうと治療をしても元に戻すことができませんが、早期発見と適切な治療の継続によって進行を遅らせることができます。少しでも早く治療を開始することにより、良好な視野を維持することで、視野障害に起因する交通事故を防ぐことができます。視野障害は特に40代以降で顕著に表れますが、自覚症状に乏しい初期の段階で発見するためには、定期的な眼科受診の必要があります。目の健康寿命を延ばすことは、運転寿命を延ばすことでもあります。目の健康を守り、安全な運転を続けましょう。
- 出典:国土交通省 プロドライバーの健康管理・労務管理の向上による事故防止に関するセミナー「運転と視野」より弊社作成
- 運転には「視力」だけでなく、「視野」「順応」「深視力」など、様々な機能の働きが重要です。
- 目の健康寿命と運転寿命を延ばすためには、病気の早期発見と適切な治療の継続が必要です。
- 特に40歳以上の方は、自覚症状がなくても定期的に眼科検診を受けるようにしましょう。
今月のクイズの答え
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(2)
両眼で0.8以上、片眼それぞれ0.5以上(道路交通法施行規則第23条)あわせて三棹法による深視力検査も実施されます。