マングローブと共に生きる
魚付き林としての役割
日本では魚類を集めその繁殖や保護を図る目的の林を「魚付き林(うおつきりん)」と呼びますが、熱帯・亜熱帯地域の沿岸で魚付き林の役割を果たしているのがマングローブ林です。
マングローブ林が失われ、マングローブが作り上げている生態系が壊れてしまうと、多くの海の生きものたちを育んでいた熱帯の沿岸域から、魚介類がいなくなってしまいます。
人々の生活と身近な森林を「里山(さとやま)」と呼びますが、熱帯の沿岸地域に住む人々の日常生活と密接に関わっているマングローブ林は、「海の里山」といえます。
「海の里山」であるマングローブの再生と保全は、熱帯の沿岸に住む人々の生活も守ることにもつながります。
家畜の飼料としての利用
マングローブの葉や若い枝は、家畜の飼料として利用されることがあります。特に年間降雨量が200~500mmと少ないアラビア湾岸、パキスタンのインダス河口域、インド北西海岸地域などでは、家畜の餌になる牧草などを陸上で確保することが難しいこともあります。
しかし、海岸にはマングローブの一種であるヒルギダマシがたくさん茂っています。栄養分の高いヒルギダマシの葉や若い枝は、降雨量が少ない地域において、ラクダ、水牛、ヤギなど家畜の貴重な飼料となっているのです。
伝統的な薬材や染料としての利用
マングローブ林と共に生活している人々は、目の病気になったとき、魚を採る魚毒を作るときなどには、どの種類のマングローブを使えばよいのかを知っています。
また、布や舟の帆をマングローブで染めると強さが増すことも知っています。太平洋の島嶼国であるフィジーやトンガなどでは、儀式に欠かせない木の繊維を使った布状のタパを染めるのにも、マングローブの樹皮を使っています。
木炭材料や薪の供給場所
マレーシアやインドネシアから輸入される熱帯木炭の多くは、マングローブから生産しています。マングローブから作る木炭は火力が強いので、プロパンガスや石油などを使わない熱帯の人々にとって、欠かすことができない燃料になっています。
また、炊事をする際の燃料として、火力の強いマングローブの枯れた枝や幹が使われています。周辺地域の人々がマングローブ林で枯れ木を集めて燃料にしていることを考えると、人々にとっての「里山」の機能を、マングローブ林が果たしているといえます。
家の建築材や舟材としての利用
満潮時には海水に浸ってしまう場所に生えているマングローブは、種類によって、腐りにくい性質を持っています。腐りにくい性質のマングローブは、家の柱材として使われます。また、腐りにくい性質のマングローブで舟を作ると、長持ちします。
マングローブの近くで生活する人々は、どのマングローブの種類がどんな性質であり、どのように用いると良いのかを知っています。
都会に住んでいる私たちは、どの植物がどのような性質で、いつ花を咲かせ、いつ実るのかを知らないことが多いといえます。しかし、自然と共に生活している人々は、いつ花が咲き、いつ実るのかなどをとてもよく知っていて、自然の営みと人々の生活とが一体化しているのです。
自然との接し方を知らない私たちは、マングローブと共に生活している人々から、学ぶこと、学ばなければいけないことが、たくさんあるような気がします。
マングローブがある生活
マングローブは私たち人間に、たくさんの恵みをもたらしてくれます。